源流域の生態系からこれからの秋田を再考する(第10回ソウゾウの森会議詳報)
概要
今回のソウゾウの森会議は9/23(土)、井戸端サウナの奈良悠生氏と絵画作家やマタギとして活動している永沢碧衣氏をホストに、「源流域の生態系からこれからの秋田を再考する」をテーマに開催しました。
当日は、県内の大学生や若手事業者、大学研究者や行政関係者など運営も合わせて47名の参加がありました。
午前のフィールドワークと午後のソウゾウの森会議+「ミルクの中のイワナ」上映会の二部で構成され、対話によって理解することは勿論、身体を使った体験からも理解が深まりました。
午前〜自然に触れ合うツアー〜
イワナの里では、地元の菊池さんから湯沢市の特徴や課題を拝聴し、その後、イワナ釣り体験やブラインドで周辺の自然を散策するなど全身を使ったフィールドワークを実施しました。
午後〜ソウゾウの森会議〜
「ミルクの中のイワナ」の上映会を皮切りに、3名のゲストスピーカーが3つのトークテーマについてトークセッションしました。
参加者はグループごとにディスカッションを行い、気づきや思いを模造紙に書き出す形で意見交換しました。
トークテーマ①イワナと私たちを取り巻く世界の共通点
映画をヒントに各分野における共通点を探りました。
ドキュメンタリー作家の坂本麻人氏から、イワナを取り巻く問題が僕ら人間社会のメタファーに感じる部分もあると指摘され、魚だけの問題ではなく当事者として考えるところに共通点がありそうだと感じられました。
ゴロクヤ市場代表の佐藤飛鳥氏から、養殖のイワナを放流することで、在来のイワナがもつ固有の遺伝子が薄まり、結果的に放流を行なっても数が増えないという問題に焦点が当てられました。
野菜も市場に合わせて「どこでも育ち」「収穫量の多い」野菜に農家が集中する傾向がある一方で、その土地固有の伝統野菜の担い手不足がおきている現状があります。
また、差別化をはかろうとする人々がそれぞれ市場を論理的に分析した場合、ほぼ全ての人が同じ正解を導き出してしまうことで、取組が均一化(=差別化の消失)するというジレンマが起こります。
これに対し佐藤氏は、「この野菜は小っちゃくてまるくて可愛い」と野菜を愛でる心や「これがやりたい」という強い気持ちを大切にすることが均一化の問題を解決する糸口になるのではないかと語りました。
トークテーマ②制約下だからこそ生まれるクリエイティビティ/生存戦略
各分野における「制約」とは何かを探る内に、全ての分野において制約が存在することが分かりました。
WAZAO-IPPON代表の加藤千晃氏は、和竿という消えゆく手仕事とそれに付随する産業の衰退について、「大量生産もできない」「継承者も少ない」という制約下で、本来の文化を守りながら、時代に合わせていくことの難しさがあることを語りました。
また、擬似餌の中にはその土地でしか使われていないor使えないものが存在し、本来は全ての土地に固有の釣具が存在するはずだという話題から、制約によって生まれるクリエイティビティの可能性について示唆がありました。
一方で、佐藤氏は自ら事業に対して制約を設け、環境配慮や長期視点を持っているかなど独自の条件で農家と契約していること、条件設定をせずに活動すると選定理由が曖昧になり農家とのトラブルを起こす可能性があることを紹介しました。
「何でもして良いよ」といわれても何をして良いか分からなくなり、制約は自由に活動するために必要不可欠であること、制約は自由の対極ではなく、むしろ近いものとして存在し、クリエイティビティの出発点になっている点を述べました。
トークテーマ③未来の世界へ託したい想い
それぞれの活動に傾倒したキッカケを語り、そこから未来についてどう在りたいかを対話の中で探りました。
坂本氏は小さい頃から釣りを楽しんでいたが、あるとき「どうしたら釣りを続けながら魚を守れるか?」を考え、それが映画で自然との関わり方をテーマにしたキッカケだったと語りました。
また、佐藤氏は秋田で山菜が採れすぎ余っていたときに、東京のスーパーで山菜が手に入らなかった経験から、「余っているのに売っていない」矛盾に疑問を抱き現在の活動を始めましたが、根底にあるのは野菜を「いとおしい」と思う「想い」であり、それを無くして続けられなかったと述べました。
加藤氏は、伝統文化の担い手は高齢化が進み自分たちの世代が継承できる最後の世代かもしれないとコメントしました。
自分の次の世代が、魅力に気づいたとしてもこの世に存在しなければどうしようもないからこそ、次に繋げる活動が必要だと思います。
最後は、ゲストスピーカーが未来への熱い想いを語り締めくくりました。
〜状況証拠しかないが、問題が存在することは、明白である〜「ミルクの中のイワナ」
生きているだけで様々な制約の下で暮らしている私たちもまた、イワナからリフレクションされる形で自分自身の生き様について考えさせられました。
問題は常に存在しますが、それを認識できるのはそこに関係があり、関心のある人だけです。
イワナを必要とした職漁師や、太古の昔から釣り人がいたからこそ、イワナを問題として捉えられます。
「秋田を再考する」とした今回のテーマ。
参加いただいたゲストスピーカーの活動は、決して大衆化されきった分野とはいえませんが、そこにも確かに問題は存在していました。
地域・自然・歴史に真摯に耳を傾けたことで、それらとの関係性が問題を顕在化させたのだと思います。
これは秋田を再考する上でも大切な思考プロセスになるのではないでしょうか?
参加者は、それぞれが住んでいる地域も年代も異なる状況下で暮らしています。
この映画や3つのトークテーマを通して、誰もが自身の向き合っている状況と照らし合わせながらトークセッションに耳を傾けていたことでしょう。
参加者にはトークを聴いて感じたことや、頭の中だけに留めてきたことを言葉として紙の上にさらけ出してもらいました。
ひとりひとりが抱える課題に関する状況証拠を整理・検証し、熟考する場。
トークセッションやグループディスカッションを繰り返しながら、各々が密度や熱のこもった対話を重ねることができた1日でした。
<開催データ>
【テーマ】
源流域の生態系からこれからの秋田を再考する
【開催日時】
令和5年9月23日(土)13:30~17:30
【場所】
秋の宮山荘
【参加者】
42名
【ファシリテーター】
奈良 悠生(井戸端サウナ 代表)
永沢 碧衣(絵画作家・マタギ)
【ゲストスピーカー】
坂本 麻人 氏(ドキュメンタリー作家)
加藤 千晃 氏(WAZAO-IPPON 代表)
佐藤 飛鳥 氏(ゴロクヤ市場 代表)
【主催】
奈良 悠生(井戸端サウナ 代表)
永沢 碧衣(絵画作家・マタギ)
COI-NEXT「技術x教養xデザインで拓く森林資源活用による次世代に向けた価値創造共創拠点」
代表機関:秋田県立大学
幹事機関:国際教養大学、秋田公立美術大学、株式会社Q0
【撮影協力】
株式会社アウトクロップ