開催報告

第6回ソウゾウの森会議のレポート(詳細版)を公開しました

第6回ソウゾウの森会議詳細

モクトサイコウ〜新しい木都を考えてみる〜(第6回ソウゾウの森会議詳報)

概要

今回のソウゾウの森会議は6/3(土)、合同会社のしろ家守舎をホストに、能代市のcafé & asobiba 4-6を会場にて「モクトサイコウ〜新しい木都を考えてみる〜」をテーマに開かれました。
当日は参加者45名、ゲストとホスト加えて60名に達する大にぎわいとなりました。

初めに、神戸で木材コーディネーターとして活躍されるSHAREWOODS 代表の山崎正夫氏に講演いただきました。
次いで、「森と人、社会をつなぐ」をコンセプトに会社を立ち上げた株式会社myaku 代表取締役の山本万優氏と、のしろ家守舎 代表社員の湊哲一氏、秋田県立大学木材高度加工研究所 所長の高田克彦氏によるトークセッションを行い、参加者全員で木都について語りました。

能代市の会場
能代市の会場
山崎正夫氏による講演
山崎正夫氏による講演

講演:SHARE WOODS 山崎正夫 氏

森(供給者)と街(消費者)をつなぐ価値

SHARE WOODSの取り組みは、分かりやすくいうと林業の六次産業化、木材コーディネートです。
素材(丸太)生産と搬出(一次)→製材と乾燥(二次)→意匠(設計)と加工から販売(三次)の全般に関わっています。
造船の街である神戸で木造船を作っていた工場の跡地を活動拠点(マルナカ木工所)としてものづくりをしています。

以前、木材塗料メーカーで働いていたときに「外材ばかりで、なぜ身近な山の資源を使わないのだろう?」と疑問に思いました。
そして、日本の山の課題を知るにつれ、山林の資源を山から街に伝える仕組みづくりが重要であることが分かりました。
森(供給者)の人は、木を伐れば自分の仕事が終わったと思っていて消費者に届かず、街(消費者)の人は近くに山や森があるのに使えることを知らず、ホームセンターで輸入材を買っているからです。
そこで、森と街の新しい仕組みづくりとして、森林所有者や製材業者、設計士、木工家、個人など様々な立場の人が出会える、例えば、製材業者と個人、木こりと設計士が出会うことができるコミュニティーづくりを進めました。
知識やアイデア、資源をシェアする仕組みが、地域材の循環の活性化につながることで、私の活動する神戸では六甲山の木を活かす取り組みが進んでいます。

木のものづくりの仕組み

林業の無い「神戸・六甲山」での仕組みづくり

緑に覆われた今の姿から全く想像できませんが、六甲山は明治初期にハゲ山で、土砂崩れや洪水が頻発していました。
そこで、防災目的の植林が明治35年(1902年)に始まり、100年以上経った今、大きくなりすぎた木を管理する段階になっています。
「六甲山森林整備戦略」を神戸市が策定して山林資源の活用が期待される中、私は林業の無い神戸で森と街が繋がる仕組みの再構築に取り組んできました。

神戸で賃挽き(持ち込んだ丸太を製材)できる貴重な製材所と繋がり、市営の木材乾燥場(土場)を設け、造船をルーツにした街の木材加工や流通のプレーヤーを繫いでいきました。
合わせて、子どもたちや市民とのワークショップを通じて、六甲山の木を使ったものづくりのアイデアや活動の仲間を増やす取り組みも地域団体と連携して進めてきました。

今年は新たな挑戦として、神戸版の木の駅“シェアドバ”づくりに取り組んでいます。
里山の木が集まり、簡易製材やビニールハウス乾燥の導入で、丸太や薪だけでなく製材も資源として、人と人をつなぐプラットフォームにしていきたいです。
これは、個人で関係性をつないでいくことに限界を感じ始めたためであり、「山」と「森」の存在価値を広げる次のステップだと思っています。

林業の無い「神戸・六甲山」での仕組みづくり

暮らしに大切な存在としての「山」や「森」に

SHARE WOODSでのコミュニケーションによって、様々なつながりが生まれたことでユニークな取り組みが増えてきました。

六甲の木を活かした様々な家具で神戸市役所のロビー空間をつくるプロジェクトでは、通常は実現困難な地域材広葉樹を多く活用した家具群の短期納品を実現できました。
入手可能な樹種、乾燥が間に合う樹種などの山側の時間軸と、製作や工程管理という設計側の時間軸のバランス調整が重要性を強く感じています。
また、利用度が低かった間伐材などの針葉樹を、丸太の太さにこだわらずに買い取り、フロアタイルや鉛筆などは、ふるさと納税の返礼品になっています。
街路樹など短尺で乾燥が難しいものは、家具の脚なら使える・生木のまま薄くスライスすれば使いやすいなど、丸太の特徴に合わせてアイデアや工夫を加えることで製品になり、地域で利用が進んでいます。

このような成果は、「林業」「木材業」の人たちだけで集っていたら実現が難しかったと思います。
地域の人々の暮らしや経済の中に、「山」や「森」が大切な存在として伝わり、取り込まれるような場をつくり、つながりをつくることが大事だと思っています。

モクトサイコウ
トークセッション
進行
足立幸司(秋田県立大学木材高度加工研究所 准教授)
コメンテーター
山崎正夫氏(SHARE WOODS 代表)
山本万優氏(株式会社myaku 代表取締役)
湊 哲一氏(合同会社のしろ家守舎 代表社員)
高田克彦氏(秋田県立大学木材高度加工研究所 所長・教授)

つながり、つなげる

山本さん

大企業で勤めていた頃から、前後の関係性がよく見えないまま、自分に課せられた役割を果たすことに課題を感じてきました。
その後、SUSTAINABLE FOREST ACTION 2022など森林・林業の事業プログラムなどとの関わりを通じて、川上(伐採や造林)から川中・川下(製材や加工)で、課題や解決して欲しい問題が違うことを実感しています。
会社myakuの名付けの由来は、山脈や水脈、葉脈、生き物の脈など自然や生きる物に共通する流れの大切さにあります。
つながること、つなぎ直すこと、動的な循環を自然なかたちにすることを意識した取り組みを進めていきたいです。

山本万優 氏
山本万優 氏

湊さん

「製材業者だから山のことをよく知っているかと思ったらそうではない」というケースは珍しくなく、木材産業が発展して分業化が進んだことで、つながりが薄くなったからだと気付きました。
これは、「昔、木都と呼ばれるくらい凄かった」という能代のまちなかで、その実感が湧かないこととも無関係ではないと感じ、有志を募って街を巡り始めたことがモクトサイコウのきっかけです。
山崎さんの活動に刺激を受けています。
能代は周りが森だらけですが、意外と森に入る活動が出来ていなかったですし、やりたいです。
地域の行政や企業の方々と連携して、一緒に動くことを少しずつでもいいから始めたいです。鉛筆つくりたい!

湊哲一 氏
湊哲一 氏

高田先生

伐採する人、製材する人、設計する人、製品を作る人という分業化はこれまでの経済成長の仕組みでは間違っていなかったのです。
「10年後20年後に、今の仕組みで秋田・能代は大丈夫ですか?」参加されたほとんどの方は大丈夫じゃ無いと思っているはずです。
山崎さんのようにコーディネートできる人や仕組みが求められ、できたつながりが仕事づくりやまちづくりに活かされていくことを期待したいです。
全員がコーディネーターになる必要はなく、今回の場のような交流を通じたコーディネートへの理解の深まりで十分だと思います。

高田克彦 氏
高田克彦 氏

私たちのモクト

参加者同士で、「わたしのモクト」を話す時間を設けました。

  • 能代には、全国や世界で通用する木材業者が多いが市民との接点が少ないので、つながる機会が増えればモクトをイメージしやすくなるはず
  • 消費者まで伝わるモクトのイメージづくりや情報発信に期待したい
  • モクトはデザインやブランディングという製材や木製品をつくる人たちのためだけでなく、林業も含めた木材の仕事全体の取り組みにすることが重要だと感じた
  • 木材を生業にする人たちがいて、暮らす人たちもそれを知っていれば木都という歴史的な面だけでなく、新しい時代の木都とは何か考えていくことの大事さが分かった
ソウゾウの森会議の様子1
ソウゾウの森会議の様子2
ソウゾウの森会議の様子3

山本さんのモクト

大学生や地元、県内外の方々など、参加者それぞれに違うモクトがあることを実感できました。
それぞれの自分の思いを大事にしつつ、自分に出来ることやキャリアに活かすことを考えながらアクションしていくことが今後のモクトに繋がるのではと思います。

山本さんのモクト

山崎さんのモクト

能代のモクトは、「製材から木工の人たちのもので、林業の立場の人から見ると関係ない」という見方もあるという点が大きな気づきでした。
特定に関わる人だけでなく、山側の人や一般の人たちにとってのモクトになるとより良いです。
また、「良い木とは何か?」を考えるのはいかがでしょうか。
良質な木を扱ってきた能代だからこそ、価値観が多様化する時代の中で、使いたい人や見方にマッチした木の良さを議論することは価値があるのではと思います。

山崎さんのモクト

湊さんのモクト

自分のモクトからみんなで共感できるモクトをつくっていければと思います。
例えば、水と密接な産業があるお酒や化粧品づくり分野では、白神山地の育む水に惹かれて事業している会社があります。
水をキーワードに視野を広げれば、林業も農業も漁業も、いろいろな人や暮らしが森や木につながってくるのですね。
ですから、これからのモクトは、みんなのストーリーを受け容れたり、一部を共有したりできる豊かさが魅力になるのではと感じました。
今日はとても楽しかったです!

高田先生のモクト

今回、山崎さんから六甲山のお話をきいて再確認できたのは、街の歴史をよく知ることと、どう捉えて何をするのかを自分だけなく、みんなで共有することの大切さを再確認できました。
私のモクトについては、一緒に話していた小杉先生(秋田公立美大)の「今のここがモクトだよね」の一言が印象的でした。
考える人たちが今いる場所が新しく始まるモクトそのものだと思います。もちろん、私もその一人です。

高田先生のモクト

ご参加の皆様、ゲストの山崎様、山本様へ主催者一同心よりお礼申し上げます。
また、モクトで会いましょう!
モクトサイコウは続きます。
ソウゾウの森会議もまだまだ続きます。

<開催データ>

【テーマ】
「モクトサイコウ」〜「新しい木都」を考えてみる〜

【開催日時】
令和5年6月3日(土)16:30~18:30

【場所】
café&asobiba 4-6
秋田県能代市元町4-6 マルヒコビルヂング 1F

【参加者】
60名

【ホスト】
合同会社のしろ家守舎(代表社員:湊哲一)

【ゲスト】
山崎 正夫 氏(SHARE WOODS 代表)
山本 万優 氏(株式会社myaku 代表取締役)

【コメンテーター】
高田 克彦(秋田県立大学木材高度加工研究所 所長・教授)

【進行】
足立 幸司(秋田県立大学木材高度加工研究所 准教授)

【運営協力】
佐藤 かれん 氏(能代市地域おこし協力隊)

【共催】
合同会社のしろ家守舎
COI-NEXT「技術x教養xデザインで拓く森林資源活用による次世代に向けた価値創造共創拠点」
代表機関:秋田県立大学
幹事機関:国際教養大学、秋田公立美術大学、株式会社Q0

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